会話の最中、同音異義語により意味を取り違えてしまうこと、たまにあります。大抵は会話の不自然さに気づき、正しい方向へと修正されるものです。
しかしながら、双方共に齟齬をきたしている事実に気づかず、全くかみ合わない会話が成立しているという不幸な場合が稀にあります。双方が異なる理解をした上で会話が終了してしまう、最悪のパターンです。そんな一例を紹介します。
通夜会場での齟齬
とある通夜の日のことです。腸の病気で亡くなった方でした。参列者の一人が親族の方と話をされていました。何気ない会話だったはずが、同音異義語の悪戯により大変な事態に発展します。
参列者「ちょうなんですか?」
親族「じなんです」
参列者「はぁ・・・ぢで・・・」
双方勘違いのまま成立してしまった会話
お分かりでしょうか。漢字にしてみます。
参列者質問「腸なんですか?」
腸の病気で亡くなったことを知っていた為、親族に話を振ったのでしょう。ところが親族は別の同音異義語として言葉をキャッチ。
親族解釈「長男ですか?」
不幸にも双方全くおなじ発音。亡くなった方は次男坊だったので、親族はそのことを聞かれたと誤解し、参列者に返球。とんでもない変化球で。
親族回答「次男です」
普通であれば、ここで返ってきた球を落球し、齟齬をきたしていることに気づく筈ですが。質問した参列者は、素晴らしい反応でこの難しい球をキャッチしてしまいました。
参列者解釈「痔なんです」
普通であれば、痔で人が死ぬはずがない!とツッコミを入れる所ですが、そこは通夜の場です。親族に対して無用のツッコミを入れられる人など、そうは居ません。この方は、回答の不自然さを感じつつも、ボールを返さねばならないと焦ったはずです。その結果、
参列者回答「はぁ・・・痔で・・・」
お互い意味不明といった様子ですが、ここで手打ちにして会話終了。なんたる不運の連鎖。そして問題は次の段階へ。
参列者達の葛藤
広くない場所だったため、この会話を聞いていた人は少なくない筈です。最初は意味不明と思いつつ、不幸にもこの齟齬に気づいた人たちが、口元を抑えています。
そう、笑いを堪えているんです。
通夜というこの世で最も笑いと縁遠い場所です。この場を笑いのるつぼに叩き落す事態だけは避けねばならないと、会話の意味に気づいてしまった人たちが、笑いのダムの決壊危機と必死に戦っているわけです。
この場で会話の意味に気づかなかった人、聞こえなかった人は極めて幸運だったと言えます。そんな人たちが周囲の微妙な異変に気づいてか、不審な眼差しを向けています。
気づいてしまった人たちにとっては、
一人決壊したら連鎖的に大爆笑になりかねない
危機的状況です。オヤジギャグが大好きな僕は、不幸にもすぐ気づいちゃいました。
友人が僕の後ろにそっと近づき、小声で話しかけます。
友人「笑うなよ・・・くれぐれも」
そういう友人も声が震えています。結構ヤバそうです。この場で最もダムを決壊させる危険があるのはくつみやだという判断は正しいのですが、どこぞの政党の元首相のように、
真に緊迫した場面で余計なチャチャいれるとロクなことにならない
というものです。
この一言で僕のダムの決壊危機が早まったと言ってもいいでしょう。そのことに気づいた別の友人が、僕に忠告した友人を小突いています。ひとまず決壊危機は遠のきました。助かりました・・・
故人最後の大勝利
幸いにも爆笑してしまった人は居なく、事なきを得ました。通夜でこんな冷や汗をかく経験は初めてでした。きっと二度とないでしょう。悪戯や冗談が好きだった方だったので、
「最後の最後まで俺達に悪戯しやがったw」
と、友人達と話したものです。ずいぶん前の話ですが、こんなことがあった次第です。
ありがとうございました。